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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)1136号 決定

抗告人

立原正義

右代理人

潁原徹郎

相手方

小田倉栄作

主文

原決定を取り消す。

別紙土地目録記載の土地につき、抗告人のために、昭和五四年一月三〇日地上建物の競落を原因とし、別紙建物目録記載の建物所有を目的とする、地上権設定の仮登記仮処分を命ずる。

理由

(本件抗告の趣旨及び理由)

抗告代理人は、主文第一、二項同旨の裁判を求め、その理由の要旨は、「原審が本件仮登記仮処分申請を却下した理由は、保全の必要がないということに尽きるが、抗告人の調査によれば、別紙土地目録記載の土地(以下本件土地という。)の所有者である相手方は、右土地を秘かに第三者に売却しようと画策していることが判明している。成程、原決定が説示するように、本件土地の所有者が第三者に移転しても、なおかつ、本件法定地上権をもつて、抗告人が右第三者に対抗しうると、法律上解釈することは可能であろう。しかし、実際問題として、相手方を被告として、地上権設定登記手続を求める訴訟の途中に、本件土地につき、第三者への所有権移転登記が経由された場合、また右第三者を相手どつて同じ訴訟を起さねばならず、この一事だけでも、抗告人が地上権設定登記を受けることを困難にするものといわなければならず、従つて本件について保全の必要性のあることが明らかである。」というにある。

(当裁判所の判断)

仮登記仮処分は、仮登記義務者が仮登記手続に協力せず、仮登記の承諾書をも交付しない場合に、仮登記権利者のために、後日なされるべき本登記の順位を保全することを目的としてなされるものであるが、不動産登記法第三三条第一項は、「前条ノ仮処分命令ハ……仮登記原因ノ疎明アリタル場合ニ於テ之ヲ発ス」と定めるにとどまり、民事訴訟法上の仮処分のような、いわゆる保全の必要性を要件とはしていない。従つて、仮登記仮処分命令を申請するに当つては、不動産登記法第二条第一項第一号又は第二号に定める仮登記原因たる具体的事実を主張し、疎明するだけで、必要かつ十分というべきである。

一件記録によれば、抗告人は、昭和五四年一月三〇日、別紙建物目録記載の建物を、抵当権の実行に基づいて競落し、その後その競落代金を支払つて、右建物の所有権を取得したこと、右建物についての抵当権設定当時右建物とその敷地である本件土地とがいずれも大久保明の所有に属していたため、同人は民法第三八八条の規定により、競売の場合につき、抗告人のため地上権を設定したものとみなされ、従つて抗告人は大久保から本件土地の所有権を取得(昭和五四年一月三〇日競落による)した相手方に対し、右地上権設定登記手続を求める請求権を有していること、それにも拘らず相手方は右登記手続に協力しないことが認められ、以上の事実は、右地上権設定登記につき、不動産登記法第二条第一項第一号所定の仮登記原因である「登記ノ申請ニ必要ナル手続上ノ条件カ具備セサルトキ」に該当することが明らかである。

よつて、本件仮登記仮処分命令申請は理由があるから、これを認容すべきである。

なお、一件記録によれば、抗告人は右建物につき、前記競落を原因とする所有権移転登記を経由していることが認められ、従つて、建物保護ニ関スル法律第一条の規定により、抗告人の前記地上権は、その登記がなくてもこれを第三者に対抗しうることは、原決定説示のとおりである。しかし、地上権につき直接登記を経由する場合に比して、右建物保護ニ関スル法律による対抗要件は、間接的で、迂遠であるといわざるを得ず、しかも将来何らかの事由によつて建物が滅失した場合には、右法律による対抗要件も喪失するに至るべきことを考慮すれば、本件建物につき所有権移転登記があるからといつて、本件仮登記仮処分命令を申請しうべき利益ないし必要性がないとはいえない。

よつて、右と異る原決定を取り消し、本件仮登記仮処分申請を認容することとし、主文のとおり決定する。

(森綱郎 新田圭一 真榮田哲)

土地目録

所在 茨城県行方郡潮来町大字延方字堺川前

地番 甲三〇二八番

地目 宅地

地積 七一〇平方メートル

建物目録

所在 茨城県行方郡潮来町延方字堺川前甲三〇二八番地甲三〇二九番地

家屋番号 三〇二八番

種類 居宅

構造 木造スレート葺平家建

床面積 82.81平方メートル

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